オランダにおけるワーク・ファミリー・バランス(14) 善積京子教授論文抜粋
追手門学院大学・地域創造学部紀要4号「オランダにおけるワーク・ファミリー・バランス」
2019年3月10日
3.オランダの雇用の実情と課題
前章ではパートタイム雇用・フレックス雇用・テレワークに関するオランダの雇用政策・法律を解説したが、本章ではその雇用の実情を統計資料から捉えることにしよう。
3-1パートタイム雇用の現状と課題
フルタイム・パートタイムの雇用の推移1982年のワッセナー合意により夫の賃金が抑制されるが、家計を補うために妻がパートタイムで働くようになり、また製造業からサービス産業へという産業構造の変動も関連し、パートタイム労働は飛躍的に増大する。
オランダの労働人口は、1980年は約500万人であったが、2000年には約700万人と増加するが、これは主に女性のパートタイム雇用者の参入によるものとされている(正木祐司・前田信彦2003)。
オランダの国内統計では週35時間以上をフルタイムとし、それを充たさない人はすべてパートタイムと定義されている。
その定義にもとづく統計(CBS, StatLine)によると、全就業者に占めるパートタイマーの割合は、1979年では16.6%、2000年では42.3%と増え、その後も増加の一途を辿り、2016年には48.5%になっている。
なお、パートタイム労働者とフルタイム労働者を合わせた常用雇用者(正規雇用)でのパートタイマーの割合は、2009年の50.2%から2016年の53.9%と微増し、フルタイマーの割合を上回る。
性別でみると、常用雇用者に占めるパートタイム雇用者の割合は、女性は2009年の74.4%から2016年には77.4%と増え、男性でも2009年の29.3%から2016年には32.7%と3割を越えている。
雇用タイプ別に男女比率をみると、2016年のフルタイム雇用では男性が76.8%、女性が23.2%で(2009年:男性76.1%、女性23.9%)、男性が4分の3を占めて、ここ8年間でその比率にはほとんど変化がない。
一方2016年のパートタイム雇用では女性は68.1%、男性31.9%で(2009年女性は68.7%、男性31.3%)、女性が7割弱を占め、その男女比率もほぼ変化はない。
以上のように、男性のパートタイム雇用者が増えているものの、フルタイム雇用では男性が、パートタイム雇用では女性の割合が圧倒的に多い。
オランダは、ヨーロッパの中でも保守的傾向が強い国とされており、雇用において依然としてジェンダーによる差が見られる。
業種別・職種別でみたパートタイム就業率働き方の多様化は、パートタイム雇用の時間のフレキシビリティを通じて広がっているが、業種によってパートタイム就業率は異なっている。
2017年の統計局のデータによると、
「土木・建設」(25.7%)、「農業」(27.8%)、「製造業・エネルギー」(27.8%)などの分野では、パートタイムの割合はまだ低い。
一方、「文化、レクリエーションなどのサービス」(70.7%)、「非商業サービス」(68.4%)、「政府・ケアサービス」(68.2%)などではパートタイムの割合が6割以上を占め高く、次は「貿易・運送・ホテル・通信」(58.6%)「金融サービス」(56.2%)、「商業サービス」(54.4%)の順で高い。
性別でみると、女性では「文化、レクリエーションなどのサービス」(82.7%)、「非商業サービス」(82.1%)、「政府・ケアサービス」(82.0%)、「貿易・運送・ホテル・通信」(81.9%)では8割を越え、最も比率の低い「土木・建設」(67.6%)でも6割以上を占めている。
一方、男性では、最も低い「土木・建設」(15.7%)から最も高い「文化、レクリエーションなどのサービス」(50.4%)まで、分野によってパートタイム化に度合いにかなり差がある。
オランダでは、パートタイム労働者とフルタイム労働者への「均等待遇」が法律で定められている。
1時間当たりの賃金を見ると、フルタイム雇用での時間給は23.93ユーロ、パートタイム雇用では19.08ユーロで、その差は4.85ユーロ、パートタイム雇用はフルタイム雇用の8割の時間給である。
パートタイム雇用については、さらに週当たりの契約労働時間別に見ると、長時間ほど時間給が高い。
これは、長時間働いている人ほど、管理的地位に就く割合が高くなることが関係していると考えられる。
ちなみに、オランダでは、週当たりの労働時間でパートタイム就労がタイプ分けされ、19時間下は「小パート」、20~27時間「中パート」、28~34時間は「大パート」と呼ばれている。
パートタイム雇用の割合は、熟練度が比較的低い仕事に多く、管理的職業や専門的な職業では少ない傾向が一般的に見られる。
しかし、2012年のデータによると、パートタイム就業者が管理職的職業では2割、専門的職業では4割を占め、オランダではパートタイム労働の活用が広範囲に及んできている(権丈英子2018)。
つづく A子
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