在蘭邦人相談窓口のブログ

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隣人の人生危機

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これでやっと社会生活が蘇りつつあるのか、されどコロナ・ヴィールスです。多くの情報が飛び交い、まだ先が見えてきません。一方、自然は喜びに満ち、木々の緑は誇らしく晴れやかで、まるで真夏のようです。

今、この中で起きた大事な体験談をひとつ、お話しましょう。

アムステルダムの旧市街。すぐお隣の運河にとあるヨーロッパ国籍の夫婦が住んでいます。彼らとは20年来の知り合いで、夫人は70歳、旦那様が83歳、数年来健康すぐれず、とうとう認知症も始まってしまいました。夫人の肩に重くのしかかるのは、ほぼ24時間体制のやりくりです。いくら医療担当者、精神科医師らの手厚いケアーがあるといっても、厳しい現実から逃れられるわけではありません。老人施設入居の可能性も相談されました。そこでの問題のひとつは食事。夫人の作った食べものしか口にしないとは、受け入れ側も容易ではありません。それに加えてコミニケーションも心配されます。ご夫婦揃ってオランダ語がダメなのです。

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4月下旬、ある肌寒い日の夕方でした。
コロナ対策のなかではカフェーを見つけることもできない、そこで夫人と私は建物の石段に一緒に腰を下ろすことにしました。そこは運河を挟んだ向かいに、夫婦宅の三階の窓が見える格好の場所なのです。夫人が外出できるのはかろうじて買い物のみ、時間はいつも限られています。


こう切り出したのは彼女でした。

「もう覚悟できているの。だって彼の病気が治らないなら生きていても仕方ないもの。彼にこう言ってみたの。一緒に死のうって。でも意味がわからず不思議そうな表情するだけ。わたしの分はもう用意してある。彼に何かあったら、あとはここにいても仕方ないでしょ。この国は全然肌に合わない、だから何もかもたまらない気持ちになるの。おまけに医者ときたら、彼の病気がわからない。だいたい、なぜ脚があんなに腫れるのか?薬を急に変えたから?鉄分の欠乏で輸血したら、そのあと、これはやはり心臓にも問題があるなんていうし、信じられない。これがわたしの国だったら、、、、と思うの。

え、故郷に帰る気はないかって? それはできない。なぜといわれても、できないのよ。そう、もう帰れないの。 賛成できないって? そう思う? 解決方法は必ず見つかる? でも、、」。


ふと見上げると、三階の窓が開いて、室内着を羽織った旦那様。外を覗くような仕草は、夫人を探し始めたのでしょう。

「もう行かなきゃ。きっとお腹がすいたのね。夕飯作るわ。わたしがいないと、だめなのよ、あのひと」。

その晩、私はとうとう寝つくことができなかった。

翌日はあいにく祭日。しかしじっとしているわけにいきません。情報を探るためにSOSインターナショナルに電話。すると自死問題を扱う特別組織があることを教えてくれました。

「113 Zelfmoordpreventie(113 自死防止)と言う専門組織がありますから、そこへ至急相談することをお勧めします。電話番号は 0900 0113 です」。


躊躇なかったかといえば、おおいにありました。しかし結論から先に言いましょう。正しい行動でした。電話を受けた女性は、声の音色からスリナム系の中年の方におもわれました。丁寧で、暖かく心こもった、プロならではのアドヴァイスでした。

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「このようなケースの自死は、それを口にする人たちの10%、とはいえこれは結果としての数字ですから。友人、隣人として貴方ができることは、まず我々に直接コンタクトするよう当人に勧めることです。これがベストな対策ナンバーワンです。是非打診してみてください。これがダメなら、その方にこう質問してあげてください。”本当に死にたいですか?”と。自問自答できる大切なチャンスです。うまくいくこともあります。次に、当人がハウスドクターに相談に行くことです。では、全て拒否されたらどうするか。残る可能性はあとひとつ。それは貴方が、その女性の状況を、彼女のハウスドクターに伝えること。貴方がこうして我々にコンタクトされた気持ちと配慮は貴重なものです。その上で言えば、貴方のできる最大限の援助と、責任感についても、ここまで、これができることの全てですよ」。

これを聞いておもわず胸が熱くなりました。

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数日後、約束の時間に夫婦宅、階下のベルを鳴らしました。現れた夫人の反応は次のようなものでした。

一枚の紙切れに鉛筆で書かれた電話番号を一瞥した彼女、組織名も知らせぬうちに首を横に振り、無言の拒否。もうその話はしたくない、こう言い切ったのです。電話番号を熟知していたことは大きな意味を持ちます。アドヴァイスを順序立てて遂行することはできませんでした。唯一幸いなことは、彼らのハウスドクターと私の医師が同人物で、これこそは救いでした。 


異例な連絡に驚いた様子のドクター、

「実はこのご夫婦の処置に大変困っていました。そうです、夫人はたびたび否定的でね。でも今のお話は今後の対処に活かせる。113からのアドヴァイスでしたか、よく連絡してくれました。ありがとう」。

最近、夫人は少しずつ前向きな姿勢も見せはじめました。がんじがらめから脱却しつつある様子です。


いつか、これ等ことのなり行きを、夫人に伝えられる日が必ず来ると信じています。     

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2020年6月   高橋真知子

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