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危機、その正体

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前回、6月のブログに「隣人の人生危機」という文章を書きました。

続編を書くことは考えてもいませんでしたが、予想もしなかった展開に驚いています。

隣人とは、近所に住む夫婦のことで、欧州国籍の70歳の女性と、数年前から外出もままにならぬ、認知症をもつ83歳の男性です。介護の疲労もあって自死願望がちらつき、戦いと呼べるような毎日は夫人にとって厳しいものです。そのなかでやっと立て直しの兆しがみえ、ホッと胸を撫で下ろしたところで前回の文章を終えました。

読者の皆さん、是非6月のブログ「隣人の人生危機」を読んでみてください。

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あろうことか、このストーリーは一段と難しい局面を迎えてしまいました。人間関係こそわたしたちの生活において最もややこしく複雑なものといわれます。母国語を用いてさえ難しい、ましてや遠く離れた異文化の国でやっていくには、言葉だけではなく、さまざまな努力が求められます。コミニケーションの不具合はできれば避けたいことですが、それが叶わず最たる事態を引き起こすことさえあるのです。

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夫人の話は耳を疑うようなものでした。

医療関係者、それに消防士と思われる男たちがやってきて、夫妻の運河ハウス三階の外壁に電動のハシゴをかけ、窓をいっぱいに開けて、そこから夫を無理やりに運び出してしまったというのです。

懇願は無視され、ただおろおろと身の置き場のない姿が目に浮かぶようです。

乱暴で強硬なあるまじき措置に言葉を失いました。

では、なぜそんなことになったのか?それが知りたいと思いましたがこの経緯については説明してもらえませんでした。

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何ヶ月も四肢の腫れが引かず、夫は投与される薬が体に合わない、どうしたらよいだろうかと問われて、セカンド・オピニオンの提案をしたところでした。そうこうするうちに彼は転倒し、ベッドからも落下して痛みで動けなくなり、一晩中床板の上というようなこともあったそうです。様態の変化は誰の目にも明瞭でした。ホーム・ドクターの措置で救援が駆けつけることが複数回に及びました。ここに至るまで、主治医、医療関係者チームは任務を怠ることはなかったと思われます。しかし問題がありました。それはどんなものかというと、両者の間に横たわるとても深い溝です。


彼女はこの国のあり方を受け入れることがどうしてもできず、なにかにつけて不満を募らせていました。それは彼女がもつ繊細さが歪められて変形した、自己否定という気持ちから発するもののようでした。自己否定にはその裏返しがあります。都合の良くない事象を他者のせいにして自己肯定を図る内面的錯覚がそのひとつかもしれません。

そんな姿勢が医療側の人々に気持ち良いわけがありません。もしもですが、今回の措置がその反動から起こされたならば、それこそが悲劇ではないでしょうか。

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家の前には救急車が待ち構えており、素早くあっという間に近隣の施設に運び込まれていきました。その後はどうしたでしょう。怒り心頭に達した彼女は黙っているどころか、「金輪際、あなた方の援助を拒否します!」、ついにハウス・ドクターに絶縁状を突きつけ大バトルの末、何の意味もメリットもない由々しい事態を招いてしまったのです。


「祖国離れてこの町にやって来たとき、この国はとても進歩した良い国だろう、そう信じてきた。ところが金のない老人は、おっぽり出すだけでなく食事もろくに与えない。医療担当者が居るのか居ないのかわからない無人のような施設に取り残された哀れな夫を、わたしは庇っていく。空腹を訴える夫のために食事の催促をしたら、文句つらつらでもってきたのは悪臭放つ、真っ黒焦げの塊が挟まったハンバーガーだった。これをどうやって、しかも病弱者に、食べろというのか」。


不潔に不衛生、シミだらけで汚れの沢山ついたままの壁、床に転がっていた人糞のようなもの、そこではオランダ語のみ、英語をいっさい話さない、こう訴える彼女。限られた時間の中で、夫をよりよい環境で過ごさせてあげたいという願いと祈りを実現させるには、緊急な「気づき」が求められています。



けっして明るい話ではありませんでしたけれど、「気づき」にはいろいろあります。暮らしていく上で私たち皆のキーワードではないかと改めて考えさせられる一件でした。彼女もこれがキャッチできますように、心から祈っています。                                                                                    
2020年7月

高橋眞知子

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