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オランダにおけるワーク・ファミリー・バランス(10)

善積京子教授論文抜粋

「ワッセナーの合意」の結果

この合意によって、労働組合は賃金抑制を受け入れ、政府は支出を抑制し減税に踏み切り、その結果、平均賃金の抑制が可能となり、企業の利潤率は上昇し、設備投資の余力を生み出し、ワークシェアリングで雇用の機会を創出させ、1999年にはオランダの失業率は欧州で最も低いレベルになった。仕事の再配分の全てがパートタイム労働の形となり、パートタイム雇用は1980年代のオランダ経済の「雇用の牽引力」(アルヤン・カイザー)となった。なお組合側は、長らくパートタイム雇用に関して、労働条件が正社員よりも劣ることを理由に否定的態度を取っていたが、ワッセナー合意が締結され、パートタイム雇用が増加し始めると、態度を変え肯定的になっていった。この合意がきっかけとなり、賃金抑制と団体交渉の分散化が始まり、集団的な時短が導入された。ワッセナー合意は、その成功により、ポルダーモデルの典型として称賛され、「協調組合主義の復活を世に知らしめたシンポル」とも表現された。ワッセナー合意は、その後の労使関係の分岐点ともなり、現在では「すべての合意の母」と位置づけられている(アルヤン・カイザー2011)。

1993年の「ニュー・コース合意」と「パート勧告」労働財団で締結されたもう1つ重要な合意が「ニュー・コース合意」で、その正式名称は「ニュー・コース(新らしい方向性):中間的な視点から見た団体交渉のための1994年度の議題」である。この合意の背景には、1990年前半にオランダの経済は停滞し、再び賃金を抑
制に対する圧力が高まり、労使の双方がより自由にさまざまな分野の要求に対応できる体制が必要だったことがあった。つまり、中央で締結するのは大枠の合意だけに留め、具体的な内容は各業界で決めることが求められていた(アルヤン・カイザー2011)。

この合意により、企業側はさらなる「交渉の分散化」と「雇用における柔軟性」を得ることができた。組合側は中央の企業経営者組織から時短に対する全面的な抵抗をやめるという約束を獲得し、地方の代表者たちは地方の問題の解決策についての交渉に参加できるようになった。このようにして、労使交渉は中央の場から離れ、さらなる分散化が進行する。また、賃金の制がもたらされ、時短も進み、多くの企業では労働時間が週36時間まで短縮され、一方、パートタイム雇用による女性の就業率が上昇する。

また、労使は同じ年に「パートタイム労働と労働時間の形態の多様化を促進することに関する考察と勧告」(略称は「パート勧告」)を出す。そこで「企業および労働市場団体は、労働と家庭生活を調和させるための必要性に対応しなければならない」と主張し、仕事と子育ての両立の解決策の1つとして、パートタイム労働が提案された。かくして、パートタイム労働は、「ワッセナー合意」では、雇用の再配分よる失業対策という経済的視点から捉えられていたが、この段階になると「労働と家庭責任の調和」というワーク・ファミリー・バランスの視点が加わる。さらにパートタイムが活用され、労働時間は多様化し、労働と家庭生活の調和を図ろうとする潮流の原点となり、1996年の社会経済審議会の「コンビネーション・シナリオ」の答申につながっていった(久保隆光2007)。

なおこのコンビネーション・シナリオは、「1.5稼ぎモデル」とも呼ばれる。「仕事と家庭責任のコンビネーション」と「男女のコンビネーション」が念頭に置かれ、夫婦2人で1.5人分の働き方をして、仕事と家庭責任を互いに分担しあうモデルである。具体的には「夫婦はともにパートタイム労働(29時間程度)で、労働を
75%ずつ分担し、育児については各自が25%ずつ担当し、残りの50%の育児は保育施設などを利用する」(谷紀子2008、140頁)といったことが提案された。

キーワード:ワーク・ファミリー・バランス、オランダ、パートタイム雇用、フレックス労働者、労働法、育児休業制度、保育行政
         
つづく 
A子

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