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あまり話したくないこともある和蘭陀

アムステルダム市のアムステル通りといえばエルミタージュ美術館、国立カレー劇場、そしてあの有名な跳ね橋のある通り。アムステル運河に沿って広々として美しい運河通りだ。その通りの一角に昔の奴隷商人の家が一件、修復されて今も残っていると聞いた。奴隷商人の話は以前どこかで聞いたがそのまま忘れていた。



そのアムステル通りの家にはとても裕福な奴隷商人が住んでいた。名前はヤコブ・リューレ(1751−1828)。彼こそはWIC(西インド会社)で奴隷商売名うてのアントニー・リューレとその妻ヤバ・ボトリの息子だった。この富豪家族は奴隷ビジネスによって膨大な富を築き、スリナム人であるということにおいてとても例外的な存在だった。



少々調べてみるとかんばしくない事実に行き着く事が判った。奴隷商売そのものと過去のオランダ経済のあり方についてだ。現代のオランダ人にさえ認識が広まっておらず、教育現場でもあまり語られぬこと、なのだそうだ。それがなぜかは読者の想像にお任せする。ではあるが、これは知らなくてはいけないことに思われる。そこで、極めて断片的なことを記することをご了承いただいて、このゆゆしき商売に触れてみよう。



WICはアフリカとアメリカの間、北から南大西洋をめぐってビジネスを発展させ、奴隷商売とは切っても切れぬ背景を有していた。WICは1621年に設立。アムステルダムを核にオランダのロッテルダムを始め5都市で組合を結成。1628年、ピート・へインがスペインの輸送船(お宝船)に急襲をかけ成功を収めた。1630年にはポルトガルからブラジルの一部を奪って勝利に輝く。なんのことはない、これら国家公認の強奪戦である。(WOC東インド会社とは趣旨が異なる)


北アフリカ西海岸は黄金海岸と呼ばれ約10ヶ所に砦があった。アフリカの男女(子どもを含め)を土地の仲介業者から買い取り輸送船が到着するまでの間収容した。その中でもパワー・ベースとなったのが元ポルトガル所有のガーナのエルミナ砦(城)。大きな船では五百人以上が積み込まれる。座る場所さえない中危険な大西洋の船旅は3ヶ月、いや半年以上かかることもあったという。最低限の食べ物と医療、健康管理がなされたとはいえ航海中、十人に一人か二人は死亡。植民地のスリナムやアンティレスに船がやっと到着し、命長らえた者たちが耕地を持つオーナーなどに売りとばされる。労力は搾取され、多くの場合肉体的限界の労働が強いられる。砂糖キビ、綿、コーヒー豆、タバコなどの栽培や収穫。それら「苦」から生まれた品々は金銀や塩などと一緒にヨーロッパに輸出されオーナーの富に還元された。



オランダの植民地スリナムがアムステルダム市の管轄にあったことは大きい。奴隷売買の主役がアムステルダムの商人たちであった理由も頷けよう。植民地は奴隷制度の導入によって機能していたのだ。WIC組織の重要人物たちの多くはアムステルダム市長や”スリナム協会”のディレクターを務めたりもした。



奴隷制度が公に廃止されたのが1814年。オランダの制度廃止は他諸国に最も遅れた。その理由を資料サイト「ダッチレヴュー」が次のように述べている。「我々(オランダ人)が他のヨーロッパ諸国のなかで奴隷制度を最も遅く終結(1863年)したのはなぜか。その答えは、まず、我々は他のヨーロッパ諸国(特に英、仏)より道徳観念が欠落していたからである。次に、我々は当時すでに17世紀黄金時代のパワーも商売のチャンスも失っており残された商売にしがみついたからである。最後に、それで生計を立てていた商人たちにはそれ以外に選択肢がなかったから。



オランダ政府は奴隷商人たちに制度廃止にあたり代償金で援助した。アムステルダムのVU (Vrije Universiteit)のリサーチによれば代償金支払いを受けた者がアムステルダムに80人はいたそうだ。奴隷を担わされた人々は何の保証も受けることができなかった。


約200年間オランダ(主にアムステルダム)の権力者たちが関わってきたビジネス。街にはこれにまつわるものが、西インド会社の建築物だけでなく、ダム広場の王宮(当時市庁舎)から始まって、数限りなく存在する。



*写真はアムステル通りの家、当時の光景。        


2018年8月  高橋眞知子

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