善積京子教授論文抜粋
追手門学院大学・地域創造学部紀要4号「オランダにおけるワーク・ファミリー・バランス」2019年3月10日
2.オランダの政労使組織と雇用政策
第2次大戦後、植民地を失ったオランダは貿易立国として復興する。1960年代には北海海底に天然ガスが発見され、この突然の天然ガス輸出ブームはオランダに多大な収入をもたらし、社会福祉制度が拡充され、高度の社会保障制度が整えられた。ところが、この資源輸出の増加と資源輸入の削減により、為替レートを過剰に上昇させ、その結果、他の貿易財務部門(特に製造業)の国際競争力が阻害されていき、1970年代には伝統の製造部門が衰退していった。
その後、天然ガスの価格は下降し、財政収入が縮小したにもかかわらず、社会保障制度を維持するために、財政支出は高い水準を維持し続けた。一方、石油産業だけでなく非石油の伝統産業でも、賃金は労働力を確保のために上昇せざるを得なくなった。かくして、1980年代始めに、オランダ企業の国際競争力は失われ、失業者が増大し(失業率:82年9%、83年12%)、大不況にいたった(長坂寿久2000)。
この大不況は「オランダの奇跡」と言われる改革により見事に克服されるが、その改革の第一歩はポルダーモデルの典型とされる1982年の政労使三者による「ワッセナーの合意」であった。この章では、オランダの政労使の組織や雇用政策の展開についてみる。
2-1団体交渉と政労使の組織
オランダでは労使の双方が3つの全国レベルの連合によって組織化されている。労組団体としては、オランダ労働組合連合(FNV)、オランダキリスト教労働者全国同盟(CNV)、中上級職員組合連合会(MHP)があり、経営者側団体としては、オランダ産業使用者連盟(VNO-NCW)、オランダ中小企業連盟(MKB)、オランダ農業園芸組織連合会(LTO)がある。労働市場の方向性はこれらの使用者組織と労働組合の代表者による協議で決定つけられてきた。この節では、労使間で行われる団体交渉に関する法律や政労使間の協議で中核的な役割を果たしてきた組織について概観する。
団体交渉に関する法律
オランダにおいては、業界レベルでは、労使間で労働協約の交渉が行われている。その交渉は1927年制定の「労働協約(CAO)に関する規則」および1937年の「労働協約規定の一般的拡張に関する法律(Wet AVV)」で規定され、政府は後者の法律に基づき協約の一般的拘束力をすることができる。そのために、組合の組織率が約20%と留まっていても、雇用契約の80%以上に労働協約が適用されているという(アルヤン・カイザー2011)。各企業のレベルでは、1971年制定の「オランダ従業員協議会法(Work Councils Act)」により、従業員50人以上の全企業に対して従業員協議会を設置することが規定され、その法律に従い労使協議が行われている。
国のレベルでは、1950年に制定された「経営組織法(Wet op de bedrifsorganisatie)」がある。これは、1930年代の大恐慌の体験から、政府の役割が大きいという認識のもとで、政府が経済成長や雇用・社会保障への介入の度合いを強めるためのものである。経営組織法では、使用者と労働者の仕事の場というコミュニティに対して、政府に助言的・管理的機能の役割が課せられた。管理的機能を担う組織として商品委員会や産業別委員会が、助言的機能を担うものとして各
諮問機関が設けられ、さらに社会経済審議会が設立された。
つづく
A子
にほんブログ村にほんブログ村に参加しています。
★ 在蘭邦人相談窓口ではスポンサー企業を募集しています。ブログランキング上位の当ブログに広告を出してみませんか?
詳細はjhelpdesk@live.nlまでお問い合わせください。
★ ボランティアメンバー募集中