在蘭邦人相談窓口のブログ

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日本の伝統文化継承の夢を追う若者がいる

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高橋眞知子・演奏家  2022年1月

みなさま、新年の御慶びを申し上げます。健康に恵まれた良いお年を。

新年にちなみ、日本の文化伝統に熱い思いを抱く、若く創造的な女性をご紹介しましょう。我が島国の由緒ある伝統文化は、その多くが時代の波に逆らえず、しかしながら、これを危機と感ずる日本人がどれほどいるでしょう。

塚本亜里菜(つかもと ありな)さんとお約束したのは、強い風に加えてなんとみぞれ混じりの朝でした。ハイビスカスのハーブティーで体を温めながら、早速お話を伺います。

「わたしは早稲田大学の3年生で、国際教養学部に在学中です。去年の夏から留学生としてライデン大学で”アーバン・スタディーズ(Urban Studies)”を中心に学んでいます。これは”都市研究”と訳されますが、日本ではまだ浸透していない分野の学問です。どんなものかというと、都市のハードな部分の計画や法律だけでなく、貧困や環境問題も考察しながら研究する多面的な学問です。包摂的で人が住みやすい健全な都市とはどういうものかを、私は考えていきたいと思っています。留学は1年間で、次の8月には帰国予定です。はい、おかげさまで、とても気持ち良くライデン大学の学生生活を送っています。

私は英国人の父と日本人の母を持ち日本で生まれました、が、なぜかとても幼い頃から日本の伝統的な祭りが大好きでした。9歳のときには地元の祭囃子(まつりばやし)保存会で祭囃子の小太鼓を習い始めました。早いものでもう12年になります。4年前には、篠笛(しのぶえ)の演奏もしてみたら、と祭囃子連の会長さんや篠笛の師匠に薦められ、勇気をもって練習に励んでいます。日本の伝統文化継承について心底から目覚めたのは実は高校生の頃でした。高校卒業研究ではこのテーマを取り上げて、自分の住む地域の状況を示唆し、継承の可能性などをプレゼンテーションすると同時に、論文としても文章にまとめました。

生徒や教員たちの反応ですか?”お祭りは好き、でも祭囃子の継承につて考えたことはなかった” というものが多かったですね。祭囃子をどう学ぶか? みな小太鼓から入って次に大太鼓へと進みますが、その間多くの人が途中で辞めていきます。思ったより難しいのです。篠笛はというと、この楽器は特別なステータスを持っています。小太鼓や大太鼓を習得した後にやっと学べるものです。祭囃子をご覧になった方はお分かりかもしれませんが、太鼓は複数人数いて代行も可能です。ところが篠笛となると祭囃子連にたったひとり、もしくはふたり位まで。主役ともいえ、核たるパートを担う楽器です。また楽譜は存在せず口伝で継承していくため習得には大変時間がかかります。私と妹が篠笛を始めた時、私の所属する囃子蓮には篠笛吹きがたったひとり残るだけで、継承は差し迫った緊急問題でした。妹は私の3歳下で今18歳ですが、私と同様の思いで取り組んでいます。

伝統継承についてはもうひとつ、友人と立ち上げた、”金糸と海での役目を終えたヨットのセールでバッグを作るプロジェクト” についてお話しさせてください。昔から西陣織や伝統的な着物の刺繍に使われてきた金糸をご存じとおもいます。そうです、日本古来のこの技を持つ職人は、ますます数少なくなるばかりです。(丈夫な和紙に漆を引き、薄い金箔を貼り付けて、湿度を保たせ乾かした後細く糸状に切ったもの。あるいは糸を芯にして、それに金箔やフィルムを巻きつけたもの。極めて高度な職人技を要する)

友人とは大学の同級生で親友の、堀灯里(ほり あかり)さんです。あかりさんは京都出身者でお家が京都の金箔を販売しています。そのためでしょう、彼女は伝統工芸に強い興味を持っています。私の祭囃子の伝統文化への思いと共鳴してどんどん話が進みました。あかりさんのお父さんはヨット乗りが趣味でした。これがヒントになり、そこで生まれた発想が、ヨットの帆と金糸の組み合わせだったのです。帆の生地を使うことで、バッグの素材は軽く、薄く、強く、水もはじきます。その上色彩が特徴的です。

ここに2点持参してみました。(筆者:蛍光色に近い黄色と青の大小のかわいく素敵な作品を拝見)。ファッショナブルな作品(袋物、小物、アクセサリー)に金糸が映えるようデザインし商品化してみました。着物への刺繍だけではない”金糸”の新しい可能性と美しさをより多くの人々に知っていただければ嬉しいです。

ここに至るまでにはいろいろな人との出会いがありました。沢山の方々に助けていただきました。まずは材料集めから始めましたが、金糸は京都・西陣の職人の方から購入し、ヨットの帆は大学のヨット部から、使わなくなったものを譲っていただきました。ものづくりは初心者の私たちでしたが周囲に相談する中で、友人がデザインを引き受けてくれたり、金糸の刺繍は、東京・渋谷にある”ATELIER FUCCA-アトリエ福花”という就労支援事業所のクリエイターの方がそれぞれ個性ある作品を作ってくださいます。そして縫製は私の親戚の者の援助です(笑)。このプロジェクトはまだ1年も経っていませんからオンラインショップの作成に試行錯誤もありますが、みなと繋がってやっていくのがたまらなく面白いんです。

物の良さは言葉で説明するより実物で訴えるのがまず一番、こうして始めたプロジェクトです。小さなところから皆を巻き込み少しずつ大きくなっていくイメージで、ロゴ・マークは、”渦巻き”。ブランド名は”sAto”です。わたしたちふたりの名前にもある、古里の里の字からくるものです。オランダでの体験を創造の糧にしていきます。故郷への想いで社会と繋がり、勉学にフォーカスすることはもちろん、これからますます頑張っていきたいとおもいます」。(オンラインショップのサイトは次の通り。 https://saaaaato.handcrafted.jp )

塚本亜里菜さんのお話はここまでです。将来の見定めが難しい異例な昨今、そこへ飛び込んできた、ワクワクするようないいお話でした。有難う御座いました。こうした豊かな発想と行動力に満ちあふれた若者に次世代を託したいものですね。


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