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オランダにおけるワーク・ファミリー・バランス(12)

オランダにおけるワーク・ファミリー・バランス(12) 善積京子教授論文抜粋

2-3 フレックス雇用と保障

近年オランダでは、労働市場における柔軟性を高める方法として、派遣労働者、有期雇用、呼び出し雇用(オンコール)などのフレックス雇用の活用が進められている。しかしながら、かつてのオタンダ労働法では、これらの働き方は望ましくないものと見なされ、その雇用は非常に制限されてきた。

 1990年代の社会・経済の変容への対応した規制緩和が求められ、労働財団は1996年に「雇用の柔軟性と安定に関する提言」を行い、それに基づき1999年に「柔軟性と保障法」(Wet lexibiliteit en zekerheid)が制定された。この法律によって、雇用の「柔軟化」と「安定化」のバランスが図られ、正規雇用の解雇を厳しく制限する労働市場の硬直性を緩和するとともに、不安定であったフレックス雇用の地位を法的に強化し、多様な働き方が広がっていった(アルヤン・カイザー2011、正木祐司・前田信彦2003)。

 この節では、「雇用の柔軟性と保障に関する法律」の内容および成立の背後になるフレキシキュリティ(flexicurity)の理念およびその内容を概説する。


フレキシキュリティの理念フレキシキュリティの理念は、労働市場における規制の緩和と雇用形態の多様化という要請と労組者の保護という課題の調整にある。つま
りこれは、雇用の「柔軟化(flexibiliteit、Flexibil-ity)」の要請と労働者の「保障(zekerheid、Security)」目標を合体する調整原理である。労働市場での自由化と社会的保護規制の尊重との混合を狙ったものである(大和田敢太2009)。

 基本的な考え方は、労働関係の開始時点では、雇用の柔軟性が認められるが、労働契約の形態がどのようなものでも、雇用が長期化すれば、労働者への保障は(使用者の責任とともに)強化されなければならないとする。

背景には、「回転ドア構造」の弊害と表現されている、有期労働契約と派遣労働契約を交互利用によることで生じる不安定な身分の長期化を防ごうという意図が働いていた。

その当時、有期労働契約についての法的規制が存在せず、契約期間が自由に定められ、行き過ぎた濫用と弊害が生じていた。そのために、労働契約の柔軟化政策においても、労働者の権利保護が課題とされ、規制緩和(柔軟)と規制強化(保障)を同時に行うことが必要とされた。

そこで「雇用の柔軟性と保障法」が制定された。この法律の目的は、①正規雇用の解雇を厳しく制限する労働市場の硬直性を緩和して、企業にとってコストのかかる硬直的解雇規制を緩和して、労働力の柔軟化を図ること、②不安定であったフレックスワークの地位を法的に強化し、有期労働・呼び出し労働・派遣契約労働などの労働契約を強化して労働者の法的地位を保障すること、である。

それによって、雇用の「柔軟性」と「保障」を同時に推進させ、労働市場での活性化と安定化を促進するという「フレキシキュリティ」の構築が目指された。

1999年「雇用の柔軟性と保障法」の内容この法律では、5つの重要条項がある(大和田敢太2009、アルヤン・カイザー2011)。

1つ目は、有期契約の回数と継続期間を規制している「拘束条項」(ketenbepaling)である(668条a)。企業は、有期雇用契約を繰り返して更新して労働者を雇用することができる。

しかしながら、この更新回数および継続期間に制限が加えられる。

契約開始から3年後、あるいは契約更新を3回続けて行った後は3カ月以上の空白期間がない限り、無期契約に切り替わる。これは、3年後、3回更新、3カ月の空白期間の3をとって、3・3・3のルールと呼ばれている。

2つ目は、派遣労働契約者の「26週ルール」とよばれる保護規定である(690条、691条)。

人材派遣業者と労働者が結ぶ契約を正規の雇用契約と定義する。ただし最初の26週間の「代理権条項」(uitzenbeding)が適用される期間は、派遣業者からの斡旋期間が終了すると雇用関係も終わる。つまり、雇用開始から26週間だけは、双方が何らの新たな義務を負うことなく雇用関係を解除することができる。

26週間を超えた場合は、自動的に期間の定めのない契約に切り替わることはない。つまり、労働契約締結から26週間経過すると、一般の労働契約の準則が派遣労働契約にも適用され、そのために、派遣会社は、派遣労働契約の期間中であれば、仕事がなくても派遣労働者に対して賃金を支払い続けなければならない。


3つ目は、呼び出し労働者(オンコール)への3時間分の報酬保障である(628条a)。この待機している労働者は、1回の呼び出しごとに、少なくとも3時間分の報酬を受け取る権利を有する。つまり、3時間働かなくても、3時間分の賃金が保障される。この適用は、週の労働時間が15時間以下の契約の場合や週ベースで何時間働くかわからない自由勤務時間契約での就労の場合である。


 4つ目は、労働契約や労働時間に関する法的推定規定である(610条)。労働者が、同一の使用者のために連続する3カ月間に、毎週あるいは月に最低20時間働いた場合は、労働契約の存在が推定される。また、労働時間について当事者の合意が不明確な場合は、最近の3カ月間の実労働時間数の平均を基にして決定される。


 5つ目は、契約解除と解雇規制である(667条)。①公共職業紹介所(CWI)における正式な解雇手続きに要する期間が6週間から4週間に短縮された。②解雇が許可された時に、従業員に予告する期間も短縮され、原則は1カ月、最長で4カ月までになった。なおそれまでは、解雇予告期間は6カ月とされていた。③契約当事者らが契約において、解雇条件に合意している場合は、契約期間内であっても、有期契約を解除できるようになる。しかしながら、無期契約の場合は有期契約に変更することは禁じられている。

2015年「雇用と保障法」グローバル化や急速な技術変化が進む中、使用者側は次第に常用雇用を避けるようになり、フレックス雇用の割合が高まる。特に、2008年の金融危機後は、フレックス雇用の固定化による労働市場の二極化が危惧されるようになる。これに対して、労使は2013年に「社会的合意」を結び、フレックス雇用から常用雇用への転換を促進することを目指して雇用改革に取り組む。2014年6月に、従来の「柔軟性と保障法」は「雇用と保障法(Wet werk en zekerheid)」に改正され、2015年に施行された(権丈英子2018)。


 この改正のねらいは、フレックス雇用の不適切な利用を減らすことにある。例えば、同一の使用者のもとで、フレックス雇用者が恒常的な仕事に長期間にわたって不本意に従事されられているケースなどが「不適切な利用」とされる。改正では、第1に、フレックス雇用から常用雇用への転換を規定する「3×3×3ルール」は、常用雇用への転換までの期間をこれまでの3年ではなく、2年に短縮された。第2に、従来は「3カ月未満」の中断期間を挟んだ契約を「1つの契約」とみなしていたが、それを「6カ月」に延長する(権丈英子2018)。

キーワード:ワーク・ファミリー・バランス、オランダ、パートタイム雇用、フレックス労働者、労働法、育児休業制度、保育行政


         つづく A子



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