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オランダにおけるワーク・ファミリー・バランス(6)

オランダにおけるワーク・ファミリー・バランス(6) 善積京子教授論文抜粋

追手門学院大学・地域創造学部紀要4号「オランダにおけるワーク・ファミリー・バランス」2019年3月10日

Kinderdijkポリダー風車の一つ
1-2.多様なグループが交わらず共存する多元主義社会(続き)

イスラム系移民への政策転換

 このようにして、移民の比率が高くなり、労働力不足を背景に流入してきたイスラム系移民も、外国人労働者の主流として独特の柱を形成してきた。ところが、
1990年代から、オランダに定着した移民の二世・三世の失業率が高くなり、彼らの宗教的信条による社会的不適応が深刻化し、移民独自の生活様式を守って社会になじまない層が拡大していく。そして、2001年の米国の同時多発テロ事件などを契機に、反移民感情が表出してくる(紺野登2011)。

 経済状況の悪化や高齢化社会の進展による高度福祉制度の限界などが背景となり、2000年代になると、さらに移民に対する排斥的な態度が顕在化し、異文化間の融合をめぐる議論が盛んになる。イスラム系移民はオランダ的価値観を共有しないと批判的な論調が高まり、2006年6月には「外国における市民化法」が施行され、結婚や家族誘致などでオランダに入国する移民に対して、オランダ語と「オランダ社会に関する知識」に関する試験が義務づけられるようになる。

 2007年の「市民化法」では、すでにオランダに定住している移民も含めて、オランダ在住の外国人に「市民化義務」を課す。16歳~65歳の外国人(8年間の義務教育修了者を除く)に対し、5年以内に市民化試験合格が要求される。「市民化」を望まない、その能力のない者には、市民権を与えない方針が打ち出され、不法就労者や不法滞在者に対する取り締まりも強化されていく。

 かくして、インド・アメリカ・中国からのIT産業に従事する者などに対しては、手続きの省略、滞在期間の延長、雇用許可申請の不要といった措置をとり、「歓迎すべき外国人」「知識移民」として流入を容易にする一方で、労働市場に参加の見込みが低い、言語や文化を共有しようとしない移民は排除されていく。

 水島治郎(2012)は、オランダやデンマークのようにこれまで弱者に手を差し伸べてきた「包摂的」福祉国家において、こうした移民の「選別」による「排除」が急速に進展していることに注目する。より多くの市民を労働市場に参加させて包摂を進める福祉国家では、女性も高齢者も障害者を含め全員が社会に貢献する「参加」型社会が志向され、「参加」を拒む者や参加の困難な者には福祉国家のメンバーとしての資格を制限する、という新しい現象が出てくる。「参加」のロジックに基づき「包摂」を進めると、「包摂しがたい」存在をあらかじめ排除しておくことが、必然的な選択になる。つまり「包摂」を徹底して進めるために「排除」が必要になる。

 このようにして、移民の言語や文化を尊重する「多文化主義」よりも、オランダ社会・文化への「統合」が重視されるようになり、オランダの特徴であった「多様なグループが交わらず共存する多元主義社会」は揺らいできている。

つづく 

A子

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